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植物特許と審査基準 -2020年05月14日
第2章 生物関連発明
この章では、生物関連発明に係る出願の審査に際し、特有な判断・取扱いが必要な事項を中心に説明する。
ここでいう生物は、微生物、植物又は動物を意味し、これには増殖可能な動植物の細胞も含まれる。
3.1 明細書及び特許請求の範囲の記載要件
3.1.1 植物の表示
原則として、植物命名法による学名又は標準和名で表示する。
3.1.2 特許請求の範囲
植物に係る発明においては、請求項は以下のように記載する。
植物自体の発明、植物の部分の発明、植物の利用に関する発明において、植物の特定は、例えば、植物の種類、当該植物が有する特徴となる遺伝子、当該植物が有する特性等の組合せによって行い、さらに作出方法を加えて特定してもよい。
例1:
樹皮中にカテコールタンニン含有量とピロガロールタンニン含有量がX1~X2:Y1~Y2の割合で含まれ、かつカテコールタンニンをZ1~Z2ppm(重量比)含む日本栗に属する植物であって受託番号がATCC‐○○○○○のもの又は上記特性を有する変異体。
例2:
2倍体のスイカを倍数化処理して得られる4倍体のスイカと2倍体のスイカを交配することにより得られる体細胞染色体数が33であるスイカ。
植物の作出方法の発明においては、請求項には、作出過程を順を追って記載する。作出過程の一つとして特性などによる選抜を行っている場合にはその選抜をする上で必要な特性等を、また環境等の条件が作出方法として必要な場合には、それらの条件を記載する。
例:
受託番号ATCC‐○○○○であるキャベツを種子親、他のキャベツを花粉親として、××除草剤に対する抵抗性を有するキャベツを得ることを特徴とする、キャベツの作出方法。
3.1.3 発明の詳細な説明
3.1.3.1 実施可能要件
(1)物の発明について
植物自体の発明及び植物の部分の発明については以下のように記載する。
①植物について明確に説明されていること
植物について明確に説明するために、例えば(ⅰ)作出された植物の種類に関する事項、(ⅱ)作出された植物の特徴となる特性に関する事項等を記載する。
(ⅰ)作出された植物の種類
原則として、植物命名法による学名又は標準和名を用いて記載する。
(ⅱ)作出された植物の特徴となる特性
作出された植物の特性に特徴がある場合には、それらについて実際に計測される数値等で具体的に記載し、必要に応じて公知の植物と比較して記載することが望ましい。
例えば、単に収量が多いという記載ではなく、1株当り総果数、1株当り総果重量或いは1アール当り総収量の如く、従来の収量調査で慣用されている方法で具体的数値を記載し、必要に応じて公知の植物と比較して記載する。
葉色、果色、花色等、色に関する記載については、色の三属性による表示法JIS Z8721の標準色票、色名に関するJIS Z8102又はR.H.S.カラーチャート等の公式の基準を用いて表現する。
なお、作出された植物の特徴となる特性が、当業者が通常行っている慣用栽培方法では発現されないとき、又は慣用栽培方法ではあるが特定の環境及び特定の栽培方法でしか発現しないような場合には、それらの特定の栽培条件を具体的に記載することが必要である。
②作ることができること
植物自体の発明及び植物の部分の発明においては、親植物の種類、目的とする植物を客観的指標に基づいて選抜する方法等からなる作出過程を順を追って記載する。
発明の詳細な説明に当業者がその植物を製造することができるようにその創製手段を記載することができない場合には、特許法施行規則第27条の2の規定に従って、植物(その種子、細胞など)を寄託する必要がある。(植物の寄託及び分譲の詳細については、「5.2 植物の寄託及び分譲」参照。)
③使用できること
植物自体の発明及び植物の部分の発明においては、当業者が使用できるように記載しなければならない。これは、発明の詳細な説明において示されていることが必要であるから、どのように使用できるかについて具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を使用できる場合を除き、どのように使用できるかについて具体的に記載しなければならない。
(2)物を生産する方法の発明について
植物の作出方法の発明については、以下のように記載する。
植物の作出方法の発明においては、当業者がその方法により当該植物を作出できるように記載することが必要である。
この場合、当業者がその方法により当該植物を作出できるように記載するために、必要に応じて 「(1)物の発明について」の実施可能要件を参照する。例えば、植物の寄託が必要な場合には、「5.2 植物の寄託及び分譲」を参照する。
また、植物の作出方法の発明においては、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその方法又はその方法により作出された植物を使用できる場合を除き、発明の詳細な説明に、どのように使用ができるかについて記載しなければならない。
(3)方法の発明について
植物の利用に関する発明については、以下のように記載する。
方法の発明について「実施することができる」とは、その方法を使用できることを意味する。また、発明の詳細な説明において、当該「方法の発明」について明確に説明されていることが必要である。
この場合、当業者がその方法を使用できるように記載するために、必要に応じて「(1)物の発明について」の実施可能要件を参照する。例えば、植物の寄託が必要な場合には、「5.2 植物の寄託及び分譲」を参照する。
なお、「説明の具体化の程度について」、「請求項の記載と発明の詳細な説明との関係」、「委任省令要件」、「従来技術及び有利な効果について」については、「1. 遺伝子工学」の該当箇所 (1.1.2.1(4)及び(5)、1.1.2.2及び1.1.2.3)を参照。
3.1.4 図面
図面として写真を使用する場合には、白黒写真を使用する。カラー写真は、参考資料として提出することができる。
3.2 特許要件
3.2.1 「産業上利用することができる発明」に該当しないもの
次の発明は、 第29条第1項柱書参照ウィンドウに表示に規定する要件を満たしていない。
(1)単なる発見であって創作でないもの
例:
自然界で発見された植物そのもの
(2)その発明が業として利用できないもの
有用性が記載されておらず、かつ何ら有用性が類推できないもの。
3.2.2 進歩性
(1)植物自体の発明については、例えば、作出された植物の特性が、その植物が属する種の公知の植物の形質から容易に予測でき、かつ当業者が予測できない有利な効果を奏しない場合は、進歩性を有しない。
例1:
その植物が属する種の公知の植物と形状又は色彩が類似しているもの
例2:
その植物が属する種の植物の公知の形質の組み合わせにすぎないもの
(単なる交配によって得られたもの:例えば、さやが未熟のときには黄色い単一の遺伝子座により支配される形質を有する公知のエンドウAと全長にわたり節ごとに花がつく単一の遺伝子座により支配される形質を有する公知のエンドウBとを単に交配して形質を固定して得た、未熟のときに黄色く、節ごとに花がつく新規なエンドウは進歩性を有しない。)
(2)植物を作出する方法の発明については、例えば、親植物、手段、条件などの選択に困難性がなく、かつ作出された植物が当業者が予測できない有利な効果を奏しない場合は、進歩性を有しない。
3.3 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正
植物の寄託に関連した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正については、「2.3 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正」と同様に取り扱う。
特許・実用新案審査基準(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/index.html