あきらめないで弁理士になる方法
今回、ウェブサイトの更新作業に伴い、昔のサイトの内容を見ておりましたら、弁理士試験に関して、私自身の体験に基づき書いた文章がありました(1999年記載)。
弁理士は、特許(発明)、商標(ブランド)、意匠(デザイン)などの知的財産に関して、権利の取得から、ライセンス契約などの活用、訴訟などを行う資格です。
近年、知的財産の重要性がいわれるにつれて、特に注目を浴びており、知名度も向上してまいりました。
また、試験制度も変わり、合格者も急増し、弁理士試験については、下記の文章を書いた当時とは変わっている面があります。しかも、私は最近の試験の状況には疎いので、ご質問等をいただいてももはやお答えはできません。
以前は受験生の相談を多数いただき、懸命にお答えしていたものですが、現在では無理ですので、その点をご了承いただいたうえで、再度掲載いたします。
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弁理士受験生、もしくはこの試験に興味を持たれたみなさん、こんにちは。
さて、「あきらめないで弁理士になる方法」とはよく言ったものです。
我ながら、ちょっと尊大な感じもします。
この方法は、簡単にいえば、「あきらめないで」と、「弁理士になる」との2つに分けられます。おちょくっているのではありません。何度も受験しながらも、半分惰性になったり、諦めかかっている方がいかに多いことでしょうか。度重なる法改正も追い討ちをかけます。もったいないことです。
1 「あきらめないで」とは続けることですが、それもある程度短期間で集中して勉強しなければなりません。
人間は、忘却する動物だからです。
たとえば、1か月に100時間勉強する人と、1か月に50時間勉強する人との2人がいるとします。合格までにどれだけの差があるのでしょうか。2倍でしょうか。違います。
1年間の勉強量が、1000:500に対して、1年間の忘却量が250:250とします。したがって差し引き、750:250が記憶として残り、合格までの時間数では3倍になります。
1か月に250勉強している人は、忘却が250として、記憶と忘却が均衡していますから、毎年受け続けることになるのです。
たいへん乱暴な説ですが、実情に近いと私は見ます。もちろん個人差や、そのおかれた環境、勉強方法の善し悪しなどが影響します。
働きながら、責任ある立場にありながら、勉強されている方には酷だなあとは思います。しかし、短期集中の心構えで、時間を味方につければ、度重なる法改正も、却って有利になります。長年勉強されてる方も、初級者も、同じスタートラインから新しい改正法を勉強することになるからです。私は商標法改正(平成8年)の時、改正法が国会で可決されたら、国会図書館で官報をコピーして、真っ先に法令集を直した思い出があります。
2 次に「弁理士になる」には、弁理士試験の性格を知ることです。多肢選択式試験、論文試験、口述試験ときて、試験のしくみ自体は司法試験とよく似ています。試験の難易度も変わらなくなりました。
しかし弁理士試験は、通産省の外郭の特許庁がとりおこなう、行政庁による資格試験です。
これは善し悪しですが、あくまでも「合格」は手段とするならば、特許庁の公式見解にしたがうこと、すなわち、いわゆる青本、「工業所有権逐条解説」(発明協会発行)の重視に尽きます。これは誰もが口にすることですが。
条文を繰り返し読み、本文中の趣旨、理由などを繰り返し覚え、蛍光ペンなどで線を引き、語句の説明を繰り返し読みます。これらのすべてが、たとえば特許法101条、商標法37条といったらすぐにその記述が浮かぶようにならなければなりません。
多肢選択式試験では、見たことがない問題が出たりしても、これらは必ず条文、基本書のどこかに書いてあるのです。
論文試験では、青本の記述を引き写し、足りないところを他の基本書や審査基準などから引っ張ってくればよいのです。
なお、その際、法律的に正しくない記述はいけません。たとえば、実用新案法でよく「無審査登録主義」などといわれますが、それは「いわゆる無審査登録主義」であって、その言葉は「いわゆる」青本には一度も出てきません。同法第14条第2項は、「実態的要件についての審査を行うことなく登録を行うことにより早期権利保護を図ること」を目的とする制度です。
仮に、論文試験で、合否のボーダーライン上にまったく同じ内容の論文を書いた2名がいて、一方は法律的に正確な言葉を記し、もう一方が「無審査登録主義」というような言葉を使ったり、「第14条第2項」というべきところを「14条2項」と書けば、私は採点委員ではないのでわかりませんが、合否が決すると思います。弁理士試験は法律の試験ですから、法律的に正確そうな人を合格させるだろうし、弁理士は文章を書く人ですから、文章が正確な人を合格させるだろうからです。
そして、青本はじめ、各基本書を重視して、細部まで読み込むことです。ここ2年ほどの試験傾向からしても、それなくしての合格はありえません。特に後藤晴男先生の「パリ条約講和〔TRIPS協定を含む〕」(発明協会発行)は、青本に次いで重要となりました。
さらに判例を一通り読むことです。基本書にも出ていますが、できれば判例集のような本が出ていますから、それを読むことです。論文試験で、見たこともないような事例形式の問題が出ても、試験委員は、まったく新たな仮想事例を作っているわけではありません。これらは、基本書のどこかに出ているような、判例から出るのです。判例集を読めば、近未来に出題されそうな、事例問題とその回答を読んでおくことができます。
採点時、試験委員には基本書の該当部分のコピーが配られるといわれています。基本書そっくりに書くべしというのは、これが理由です。
なお、受験生の論文答案(答案練習会)を見る機会がありますが、細部の知識があっても、制度の趣旨が書けず、文章の筋が通っていない受験生がかなりの部分を占めます。相当の実力者と思われる方でもです。私自身は、論文の趣旨部分に相当の力を割きました。
3 以上、思いつくままに書きましたが、具体的な勉強方法、受験予備校の選択などは、各自で工夫してもよいかと思います。
私自身は、知識のインプットは独学に近く、書物には金をかけ、アウトプットには答案練習会等をかなり活用いたしました。
蛇足ですが、私はお酒が好きで、近所の居酒屋のカウンターの端に勉強する指定席がありました。これは真似をしないほうがよいです。また、青本は、きちんと勉強するための1冊のほかに、寝床にいつも1冊があり、夜中や早朝に目が覚めたときには読んでおりました。
思い起こせば辛い日々ではありましたが。
それでは、みなさまの御健闘をお祈り申し上げます。