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どくとるマンボウ青春記(北杜夫) -2004年08月08日
「こうして二十年以上経っても鮮明に網膜に残っているのは、信州のひえびえとした大気の中にひろがる美しい山脈(ヤマナミ)である、殊にその秋の私の心象を映してか、夕暮の光景ばかり思いだされる。
西方のアルプスの彼方に日が落ち、松本平を薄もやがおおい、山々はうす蒼く寒々とした影となって連なっている。草の実はいつ知らず地にこぼれ、うら枯れかかって霜を待っている。--そうしたもの寂しい光景だ。」
「三日後、私は松本の駅を辷りだす汽車のデッキに立ち、去りゆく信州の自然に最後の一瞥を投げた。
南松本の駅近くでは、西寮の建物が、今更のようにこんなひどかったのかと思われるほどボロっちく建っているのを見送った。それから汽車が塩尻に近づくころ、ほんのしばらく北アルプスの前衛の山の背後に垣間見える黒白だんだらの穂高の姿。
それらは否応なしに別れざるを得ない青春--当時はそういう言葉を使う気がしなかった。ただ、痛切な追憶のぎっしりつまった何ものか、という感じであった--の最後のなごりのような気がした。
穂高の姿が消えると、私は汽車の座席に戻り、おそらくはうつろな目つきで、文庫本のランボーの詩集を読みはじめた。」
何度も繰り返し読んでボロボロになった、こうした文庫本を片手に、夏に松本の街に一人で列車に乗って行き、冬に松本の街に一人で列車に乗って行っていたのが、高校生の頃の自分です。
その頃のことも含め自分の精神の形成過程を小説にしようとして途中まで数十枚、十年以上前に書いた原稿が、ごく最近発見されました(笑)。
小説は社会人になってからも書いたことがありますが、新人賞の予選通過止まりでした。
Posted at 00:46 | 生い立ちの記