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どくとるマンボウ青春記(北杜夫) -2004年08月06日
ポウポウと竹を吹く
一点の赤きものをどりて
つかのま火の粉をちらせば
やうやくに黒き灰どもヤケドを起し
ボウボウと叫びをあげぬ
昨日はすでになく
今日のことはあと半日の思ひなり
理解されざるを憤るにあらずして
むしろ理解しあたはざるを憤るなり
くやしくやし
さればフンヌを叩きつけんとして
無性にポウポウと竹を吹く
青きほのほ
ボウボウと音を発すれど なほわが心なぐさみがたし
赤き火の粉舞うては消え
何もののくすぶるかいたき煙にわれは涙ながせり
涙ながるれどもなほフンヌやりがたくして
ボウボウと力をこめて竹を吹く
ライ病患者のごとき男 今日も町にて会へば
かぶりしマントの中からニヤリと笑ひて
手をとり映画を見んと誘ふにあらずや
断れば即ちかくしより短き喫ひがらを出し
われに与えんと 言ふにあらずや
なほ人あり ストーブの煙に隠れて
授業中に喫ひて快なりと誇る
なほ人あり フランスの話をして去りぬ
なほ人あり 会ふや直ちに人を面罵し
人のパンを奪ひ食ひて得々たり
なほ人あり 人の顔を見るやをかしげに笑ひて去りぬ
ああ フンマンは大地に満てり
さればポウポウと竹を吹く
十二月の松本の空気は
すでに石のごとくに固し
傷口はうづきてコタツは未だ寒し
われの心氷より冷くしてかつ熱気をはらむ
おのが胸中のわれにも不明なるをもって
おのが心にあきれかへりしをもって
何が何やらわからなくなりしをもって
ただヤケなり ポウポウと竹を吹く
隣室の幼子は悪魔よりみにくし
その泣声は今は耐へられず
今宵彼女をしめ殺す夢を見ざれば幸なり
炭は赤く叫びたれど
火の粉をどれど
ああ 人々々々
われの憤りはやまず
世にわれあることも瞬時にして堪へがたし
されば むやみにポウポウと竹を吹く
Posted at 00:29 | 生い立ちの記